果肉が褐変しないリンゴ‘千雪(ちゆき)’(品種登録名:あおり27)
(地独)青森県産業技術センター りんご研究所 品種開発部 深澤(赤田)朝子        .
 ‘千雪’は、りんご試験場(現:地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所)で育成された品種で、2008年3月に‘あおり27’の名で品種登録されました。果実販売時には商標名の‘千雪(ちゆき)’を使用します。
‘千雪’は、果肉の切り口が変色しないという極めて稀な特性を持っています。既存品種では難しかったカットやスライス、すり下ろしリンゴなどの一次加工品の開発や、中食・外食産業での利用など、新たな需要の掘り起こしが可能で、今後、リンゴの消費拡大に貢献できる品種として期待しています。
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‘千雪’の育成経過(表1)
 ‘千雪’は、1983年に‘金星’にマヘ7を交配して得られた実生集団の中から、着色と食味の良さに注目して1995年に一次選抜されました。花粉親のマヘ7は、りんご研究所で保存されている中間母本で、鮮やかな着色と華やかな香りが特徴的な10月中下旬収穫の中生種で、‘印度’に‘ゴールデンデリシャス’ を交配して得た選抜系統に更に‘レッドゴールド’を交配して得られた選抜系統です(図1)。  当初、果点さびが目立つことなどから二次選抜を見合わせていましたが、その後の調査で、果肉の切り口やすり下ろした果肉が数日経ってもほとんど褐変しないという珍しい特性が明らかになり、系統名‘青り27号’として2004年に二次選抜されました。現地適応性試験等を経て、2008年に品種登録され、苗木販売が開始されました 。

‘千雪’の果実特性
 ‘千雪’の収穫時期は、育成地の青森県では10月中旬〜下旬で、ほぼ‘ジョナゴールド’と同時期です。果実は円〜円錐形で、大きさは300〜350g程度、果皮色は‘レッドゴールド゙’に似た濃紅色で、‘つがる’や‘ふじ’のような縞はありません。さび状の果点が大きく目立ち(写真1)、外観上の欠点と見られることもあるため、聞き取り調査を続けてきました。幸いにも消費者から否定的なコメントを聞くことはなく、むしろ「ドット模様で可愛い」など、肯定的な意見も聞かれました。既存品種と区別できる特徴的な外観は、良いことと考えられます。
果肉は硬度18ポンド程度と硬く、糖度が15%程度、酸度が0.3g/100ml程度で、食味は甘く、果汁が多く、華やかな芳香があるリンゴです(表2)。肉質が粗く、食感は‘金星’に似ています。心かびの発生がみられますが、‘シナノスイート’と同じく子室(種子が入っているところ)が黒ずむ程度です。品質が保持できる期間は普通冷蔵で2か月程度、生果は基本的には年内販売用となります。収穫後直ちに冷蔵庫に入れた果実で「軟性やけ」という低温障害の発生が見られる場合があるため、10℃程度の常温で5〜7日間置いてから冷蔵施設に搬入するように指導しています。

変色しないリンゴ ‘千雪’と果肉褐変のメカニズム
 りんご研究所で保存しているリンゴ205品種・系統について、果肉をすり下ろし、1日放置後に調査したところ、‘千雪’ほど変色しない品種・系統は他にはありませんでした。表3は主な品種のすり下ろし8時間後の果肉褐変程度です。また、‘千雪’については、すり下ろして常温で3日以上置いても、凍結・融解しても、褐変しないことが確認されています(写真3、4)。

 一般に、リンゴなど果物の切り口が茶色に変色するのは、果肉中に含まれるポリフェノール類が酸化されて、反応性に富むキノン類が生じることによって起こります。このポリフェノール類と酸素の結合反応は、果肉中に存在するポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素によって触媒されます(図2)。
 ‘千雪’の果肉が変色しない理由について調査したところ、他の品種に比べて、PPO活性が著しく低く、褐変基質のポリフェノールの含量も少ないことが明らかになりました(図3)。

おわりに
 ‘千雪’は生食の他に、カットリンゴやすり下ろしリンゴなど、これまでは褐変することで利用が難しかったリンゴの一次加工品の製造や、酸化防止剤を使わないジュースやシードルなど付加価値をつけた加工品の製造に活用できます(写真5)。離乳食や介護食、給食、弁当、レストラン、製菓店といった中食・外食産業などで、様々な利用方法や製品を開発して頂き、これまでにないリンゴの楽しみ方や消費の拡大に繋げて頂くことを期待しています。

参考文献

  1. 今 智之・葛西 智・工藤 剛・深澤(赤田)朝子・佐藤 耕.リンゴ‘あおり27’の果肉が褐変しない特性に関する研究(第1報)褐変しない要因(2008)園学研7別1.56
  2. 今 智之・ダニエル フェレーラホルデルバウン・工藤 剛・深澤(赤田)朝子.リンゴ‘あおり27’の果肉が褐変しない特性に関する研究(第2報)成熟過程における果肉の褐変程度(2009)園学研8別2.88
  3. 今 智之・工藤 剛・後藤 聡・深澤(赤田)朝子.リンゴ‘あおり27’の果肉が褐変しない特性に関する研究(第3報)着色程度,園地,果肉部位の違いによるすり下ろし後の果肉褐変程度への影響(2009年9月)園芸学会東北支部会