「レモンと健康」に関する研究の動向
県立広島大学保健福祉学部 堂本時夫        .
1.はじめに
 農林水産省の特産果樹生産出荷実績調査によると(農林水産省ホームページ:統計情報)、レモンの国内における生産量は近年飛躍的に増加している(図1)。国内におけるレモン生産量は昭和62年以後は連続して広島県が1位の座を占めている。平成20年の統計でみると、レモンの県別産量は広島県(4,291t)、愛媛県(1,810t)、和歌山県(488t)の順となっており、国内の65%以上が広島県で生産されている。しかし、海外からのレモン輸入量が年間約60,000tに対して国内生産はその十分の一であり、圧倒的に輸入レモンに頼っているのが現実ではある。近年の国内産レモンの生産量増加は、食の安全志向に加えて食生活を通して健康を保ちたいという消費者に「レモンと健康」についての情報が理解されつつあることの反映とも思える。我々は2008年よりJA広島やレモン産地の人達の協力を得て、ポッカコーポレーションとの共同研究により、レモンの健康への効果について研究を進めている。ここでは、最近の我々の研究を紹介するとともに、多くの人にレモン研究への興味を向けてだくことを期待して、レモンの健康への効果に関する広範囲の研究の動向も紹介する。

2.レモンの成分の概観
 レモンの成分についてはこれまでにも詳しく紹介されているので、ここでは後述する内容に関係する特徴について簡単に触れる。レモンと言えばビタミンCというほど一般的なイメージがあるが、ビタミンCは0.05g/100g含まれており、温州ミカンの約1.4倍となる。また、レモンの酸味のもととなるクエン酸は非常に多く含まれており、その量(6.08g/100g)は温州ミカンの約6倍、ウメの約2倍となる1)。一方、他のかんきつ類同様にレモン果皮にはポリフェノール類が多く含まれていることがよく知られているが、健康への有効性から、近年その利用が加速されつつある。レモン果皮にはポリフェノール類の中でも圧倒的に多くのフラボノイドが含まれ2)、とりわけ脂質に対する抗酸化力が強いエリオシトリン(果汁中:12.1mg/100ml、果皮中:280mg/100g)が他のかんきつ類の30〜100倍含まれていることが特筆される3)。また、かんきつ類の果皮には精油が豊富に含まれているが、レモン精油の中には圧倒的にリモネンが多く含まれ、レモンの芳香のもととなっている4)

3.レモン摂取によるメタボリックシンドロームの予防・改善への期待
 メタボリックシンドロームの予防と改善に対する取り組みは運動と食生活の両面から考える必要があるが、近年の健康食品の氾濫、食育の重要性を考慮すると、食生活の面から健康への取り組みを考えることの重要性は増してきている。とりわけ、食品の効果の有効性を科学的根拠に基づいて提示する必要性がより重要となってきており、メタボリックシンドロームの予防・改善に対して、食品や食習慣の面から見直し、取り組む本格的な研究が近年多くみられるようになってきた5〜7)
 実験動物を用いた研究からは、レモンポリフェノール摂取が高脂肪食後の血中高脂肪及び高血糖を抑える効果があること8)や、血圧上昇抑制効果があること9)等が示されている。レモン果皮からのフラボノイド配糖体投与による動物での血圧降下作用はすでに1984年の隈元らの報告に見られ、その有効成分は6,8-ジ-C-グルコシルアビゲニンおよびリモシトロール-3β-D-グルコースであることが示されている2,10)。一方、ヒトを対象とした研究では、健常者に対して高脂肪食とともにレモン果汁を摂取させた場合、高脂肪食単独よりも脂肪食負荷後のTG吸収抑制及びカイロミクロン合成遅延効果がみられ、レモンポリフェノールによる脂肪代謝改善効果が示唆されている11)。また、健常者を対象として、レモン果汁500mlに含まれるポリフェノールと同量のレモンフラボノイド配糖体粉末を摂取させると、摂取前に比べ1時間後に有意にLDL酸化能を示すラグタイムが延長するという結果が示され、レモン摂取がヒトLDLに対する抗酸化能を高めることが示された12)


 上に挙げたレモンのメタボリックシンドローム改善効果は実験的に得られた結果であり、普段の食生活にレモンを取り入れることで効果が期待されるかどうかについての報告が待たれていた。そこで、我々は2008年秋から2009年春にかけて、日常的なレモン摂取の健康指標への影響をレモン産地の中高年女性(111名)を対象に調査した。結果はすでに報告13)しているが、ここで概略を紹介する。2008年9月(1回目)と2009年3月(2回目)に身体計測や血液採取を行い、この間の5ヶ月間にわたり日々のレモン摂取量を記録した。測定した19項目について1回目と2回目の測定結果の変化量とレモン摂取量(1日平均摂取個数/人:平均0.53個)との間の相関を調べた。その結果、収縮期血圧との間には、有意な負の相関が(図2a)、また血中アディポネクチン濃度については有意な正の相関が確認された(図2b)。動脈硬化の指標となる上腕足首間脈波速度(baPWV)と血中レプチン濃度については有意確率は5〜10%であったが負の相関がみられた。また、対象者を1日平均レモン摂取個数が0.3個未満(果汁換算で約10ml未満)、0.3個以上〜0.7個未満(果汁換算で10〜20ml)、0.7個以上(果汁換算で約20ml以上)の3群に分けた上で収縮期血圧、上腕足首間脈波速度(baPWV)、血中レプチンおよびアディポネクチン濃度について1回目から2回目への測定値の変化量を比較したところ、レモン摂取量が多い群ほど、収縮期血圧、上腕足首間脈波速度、血中レプチン濃度については減少傾向が、血中アディポネクチン濃度については増加傾向が明らかであった。これらの結果より日常的なレモン摂取には血圧降下作用がみられることが明らかであり、ほぼ20年前に確認されたレモンポリフェノールによる動物での血圧上昇抑制効果2,10)をヒトの日常的レモン摂取によっても確認したことになる。
 一方、レモン摂取量が多い人ほど血中アディポネクチン濃度が増加傾向にあり、血中レプチン濃度は減少傾向にあるという我々の結果は、レモン摂取によりアディポサイトカイン分泌が改善され、動脈硬化などのメタボリックシンドロームの予防・改善に結びつく可能性を示唆している。血清アディポネクチン値はBMI、ウエスト周囲長、体脂肪率、血圧、インスリン抵抗性などと逆相関するのに対して、血清レプチン濃度はこれらの指標と正の相関をすることが知られている14,15)。そのことを反映して、メタボリックシンドローム該当者は血中レプチン濃度が高く、逆に血清アディポネクチン濃度が低い場合が多くの報告に見られる16)。また、レプチン/アディポネクチン比が小さいほど、動脈硬化指標は良好な値を示すことも知られている17)。最近の実験的な研究からは、レモンフラボノイド投与により血管内皮細胞に対する単球接着が抑制され、炎症反応が抑制される結果も得られている18)。培養細胞を用いたin vitroでの一連の研究からは、動脈硬化の発現に密接な関連を持つことが知られている細胞外マトリックス分解酵素(MMP)活性を、レモンフラボノイド(特にエリオシトリンとエリオディクティオール)が抑制することが示されている19)
 以上のように、レモンを摂取することによるメタボリックシンドローム予防・改善効果は多方面の研究により示唆されており、今後レモンをどのように有効に食生活に取り入れるかについての応用的工夫が期待される。

4.レモンによる疲労回復およびストレス緩和効果
 身体疲労時や運動後には甘味や酸味の欲求が高まることは経験的によく知られており、レモン果汁は味覚的にも爽やかさが感じられることから、疲労時や運動後に良く摂取されてきており、一般にはビタミンCやクエン酸が有効な成分と考えられている。運動負荷前にクエン酸を摂取することにより、運動負荷後の肉体的疲労回復が促進され、ストレス物質の蓄積も軽減されること20)、あるいは持久運動負荷後にレモン果汁及びクエン酸を摂取することにより、運動中に上昇した血中乳酸濃度を減少させること21)などが知られており、運動中あるいは運動後にレモンを摂ることで、クエン酸補給によるエネルギー供給と筋肉の疲労回復に有効であることの裏付けは多い。また、レモン摂取の効果は運動後の肉体的疲労回復に限らず、デスクワークや普段の生活の中での疲労感を抑える効果も知られている。梶本らは日常生活で疲労を自覚している被験者を対象に大規模なプラセボ対象WEB調査を実施し、レモンクエン酸配合飲料の摂取が疲労感、緊張度、退屈感、イライラ感を緩和し、摂取の継続によりその効果がより顕著になっていることを報告した22)
 一方、香りを心身の癒しに利用するアロマセラピーは古くからおこなわれてきた。特にストレスの多い現代社会においてその効果が期待され、レモンによる様々なストレスの緩和あるいは心身の疲労回復作用についての研究がなされている23)。デスクワークとしてのタイピング作業24)や単純加算作業25)などを負荷させている間にレモンの香りを嗅がせた場合、作業そのものの効率にはそれほど影響しないが、心拍数の軽減や疲労感の軽減がみられ、軽作業による活力低下予防に効果があることが報告されている。アロマセラピーを臨床に応用する試みでは、レモン精油を高血圧患者に吸入させることによる降圧効果26)が確認され、動物を用いた実験的研究においてもレモン精油やグレープフルーツ精油のリモネンが交感神経を刺激して、脂肪分解、体温上昇、血圧上昇をさせること27)が示されている。ヒトを対象とした研究では交感神経活動の亢進はレモンの経口摂取によっても、引き起こされる可能性が報告されている28)

 以上の他に、レモンの抗菌作用29)やリラックス効果を利用した様々な分野30)への応用研究が進められている。これからも、レモンを利用した食品や香り成分についての未開発の利用法が開発され、その応用が人々の健康増進に少しでも役立ち、国内のレモン産地の更なる活性化が進むことを期待している。

引用文献

  1. (社)日本果汁協会監修:「最新果汁・果実飲料事典」、東京、朝倉書店、461(1997)
  2. レモン果皮中のフラボノイド配糖体の構造および血圧降下作用、隈元浩康ら:Nippon Nogeikagaku Kaishi, 58(2), 137-143(1984)
  3. Characteristics of antioxidative flavonoid glycosides in lemon fruit. Miyake Y. et al.:Food Sci. Technol. Int. Tokyo, 4, 48-53(1998)
  4. カンキツ精油の有する生体作用の生化学的解析、受田浩之:Aroma Research, 9(4), 2-6(2008)
  5. 農村における生活習慣病の臨床学的研究―年齢別にみた食品摂取状況と検診成績の関連性―、高橋恵子ら:日本農村医学会雑誌、75, 700-707(2002)
  6. 職域中高年男性におけるメタボリックシンドローム発症に関する食習慣の検討、大塚礼ら:日本栄養・食糧学会誌、62, 123-129(2009) 
  7. 動脈硬化と機能性食品、近藤和雄、平田悠美子:Functional Food, 2(2), 121-126(2008)
  8. Lemon polyphenols suppress diet-induced obesity by up-regulation of mRNA levels   of the enzymes involved in β-oxidation in mouse white adipose tissue. Fukuchi Y.   et al.: J. Clin. Biochem.Nutr., 43, 201-209(2008)
  9. Suppressive effect of components in lemon juice on blood pressure in spontaneous      hypertensive rats. Miyake Y. et al.: Food Sci.Technol.Int. Tokyo, 4, 29-32(1998)
  10. レモン果皮中のフラボノイド配糖体の構造および血圧降下作用(その2)、隈元浩康ら:Nippon Nogeikagaku Kaishi, 59(7), 677-682(1985)
  11. レモンの食後高脂血症抑制作用の検討、臼田美香ら:日本未病システム学会雑誌、10, 62-63 (2004)
  12. レモンフラボノイドのヒトLDL被酸化能に関する検討、桜井智香ら:日本未病システム学会雑誌、9, 239-242(2003)
  13. 日常的なレモン摂取によるメタボリックシンドローム関連指標への影響、堂本時夫ら:Health Sciences, 26(4), 210-218(2010)
  14. メタボリックシンドロームとアディポサイトカイン、前田和久、舟橋徹:Functional Food, 1(1), 34-39(2008)
  15. Adipocytokineと動脈硬化臨床指標、井上郁夫:Adiposcience 4(2), 175-182 (2007)
  16. 農村部住民におけるメタボリックシンドロームの実態―アディポサイトカインとの関連性の検討、大林浩幸ら:日本農村医学会雑誌、55, 449-458 (2007)
  17. 脂肪細胞由来炎症性サイトカインと動脈硬化、佐藤啓子、小川佳宏: Adiposcience, 4(3), 271-278 (2007)
  18. モンフラボノイドはホモシステインによる単球の炎症反応を抑制する、谷真理子ら:肥満研究、15 Suppl., 253(2009)
  19. MMP(Matrix Metalloproteinase)と機能性食品、蔵田英明、町田尚子:Functional Food, 2(2),   176-187(2008)
  20. Effects of citric acid and L-carnitine on physical fatigue. Sugino T. et al.: J.Clin.Biochem.Nutr., 41, 224-230(2007)
  21. ヒトにおけるレモン果汁およびクエン酸摂取が運動後の血中乳酸濃度の及ぼす影響、三宅義明ら:日本栄養・食糧学会誌、54(1), 29-33(2001)
  22. レモンクエン酸の疲労感軽減効果、梶本修身ら:Jpn.Pharmacol.Ther.(薬理と治療)、35(7), 821−828(2007)
  23. 暮らしのなかへの匂いと癒し、山西優一郎ら:日本アロマセラピー学会誌、8(1), 11-16 (2009)
  24. デスクワーク作業時の呼吸代謝および脳血流の及ぼす香りの研究、新松直ら:日本味と匂学会誌、16(3), 593−596(2009)
  25. The effect of lemon fragrance on simple mental performance and psychophysiological parameters during task performance. Kawamoto R. et al. : J UOEH, 27(4), 305-313(2005)
  26. 高血圧患者を対象とした精油の嗜好調査とその降圧効果の検討、山口徳子ら:日本アロマセラピー学会誌、3(2), 76(2004)
  27. 匂い刺激の自律神経活動、脂肪代謝調節に及ぼす効果:アロマテラピーの生理学的研究、新島旭:自律神経、45(5), 178-185(2008)
  28. レモン、グレープフルーツ摂取が自律神経活動動態に及ぼす効果、永井成美ら:肥満研究、14(1), 17-24(2008)
  29. レモングラスの抗菌、抗ウイルス作用、今西二郎:aromatopia, 18(3), 14-17(2009)
  30. 看護領域におけるアロマセラピー研究の動向と課題、原三紀子ら:看護実践の科学、7月号,

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