柿の機能性
島根大学 生物資源科学部 板村裕之        .
はじめに
 ‘柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺’(正岡子規)と詠まれ、昔から日本人の心に、ほのぼのと秋を感じさせてくれる “柿”(写真1)。「新撰姓氏録」(大和時代)に柿が人名に現れてくることが記載されていることから、すでに大和時代には柿が存在していたと思われます。また、「本草和名」(918年)や「延喜式」(927年)に柿の記述が見られることから、平安時代には一般的に利用されていたものと思われます。木ざわし(木の上で自然に脱渋するいわゆる甘柿)、さわし柿(人工的に渋を抜いた脱渋柿)、干し柿、あんぽ柿(干し柿より水分含量が多い生乾きのもの)等の食用が主な用途です。
 カキ果実は糖質とビタミンを豊富に含み、ビタミンAはウンシュウミカンと、ビタミンCはイチゴと同程度含まれています。さらに、筋肉の収縮など人間の生命活動に重要な役割を果たすカリウムを多量に(果実100g当たり200mg)含んでおり、保健食品としても重要です。また、成熟時渋ガキに1%程度含まれる渋み物質である可溶性タンニン(カキタンニン;分子量13,800)は図1のような構造をしています。エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキン-3-ガレート、エピガロカテキン-3-ガレートの4つの単量体のポリフェノールが構成要素となっています。
 いずれも、癌を予防する作用が確認されていますが、カキタンニンそのものも高血圧や二日酔いの予防によいとされ、機能性食品としても注目されています。
 カキタンニンは、若い果実を搾汁したものを3年ほど瓶の中で発酵させて作る‘柿渋’の中に豊富に含まれます。柿渋は古くからタンパクとの結合性を利用して、清酒の白濁原因のひとつであるタンパクの沈殿除去;澱(おり)落としに使われたり、セルロースなど繊維質との結合性を利用して、魚網や傘に塗って補強するのに使われていました。最近では金属を吸着する性質を利用して、船体のさび止めに用いたり、携帯電話の基盤に使われている金を回収するのにも使われています。また、抗酸化性、抗変異原性(細胞が突然変異をするのを防ぐ性質)、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、抗アレルギー作用、血圧降下作用、消臭作用、香味改良効果、悪酔い防止作用など多くの機能性が証明されています。本稿では、柿のこれらの機能性について、悪酔い防止効果を中心にその一端を紹介致します。

1.さび止め利用
 NHK経済最前線2005年10月25日(火)「広がる柿渋の利用」で「柿渋のさび止め利用」について次のように放映されました。従来船体などのさび止めには、六価クロムによる金属メッキが用いられていました。しかし、「六価クロムが2006年7月以降に土壌汚染のため法律で使用中止(番組での解説)」とのことで、柿渋を金属に処理する試験を行ったところ、六価クロムより耐塩性が高く美しいさび止めが実現しました。現在、柿渋の受注で柿渋店がおおわらわとの報道がなされました。

2.携帯電話基盤の金回収
 佐賀大学の井上氏らは、カキの皮を利用して携帯電話の電子基盤などから金を回収する技術を考案しました。カキの皮に含まれる渋み成分に金を選択的に吸着する性質があることに着目しました。カキの皮に濃硫酸を加えて100℃で加熱すると、カキの渋み成分どおしが結合して水に不溶性のゲル物質ができます。
 このカキの皮ゲル物質を、金や鉄などの複数の金属を溶かしこんだ0.1M塩酸溶液に加えると、金をほぼ100%吸着し、他の金属を吸着しませんでした(図2)。ろ過した後でカキの皮ゲル物質を燃やせば金だけを回収できることになります。精錬技術を応用した現在の回収法に比べ低コストになる可能性があるということです。

3.カキの皮を牛の飼料に利用
 韓国の干し柿の産地であるサンジュ(尚州)では、干し柿をつくるために剥皮したカキの皮を干して、昔から下痢などで衰弱した牛の餌に混ぜて健康を回復させる習慣があります。現在では、より積極的に、干した皮を牛の飼料のために売っています。これを食べた牛をブランド化して販売しているといいます。産地ではカキは捨てるところがなく、有効利用していることになります。

4.香味改良効果
 泉谷と野崎氏は、柿渋製剤がグレープフルーツジュースの苦味緩和効果があったことを報告しています。また、チョコレートクッキーの香りと品質の向上、人工甘味料を添加したコーヒーの、人工甘味料に特有の後残り味を改善し、渋みの低減とコクの増大があることで、品質の向上効果があったとしています。さらに、生魚の臭い物質であるトリメチルアミン3%水溶液に柿渋製剤を添加したところ、0.2%添加区でほとんど臭いの発生を抑制したと報告しました。

5.熟柿ピューレの食品への利用
 熟柿からピューレを調製して、パンに練りこむなど菓子への添加応用が試みられています(写真2)。タンパクやセルロースなどと結合するためか,パンの生地に‘もちもち感’を与え大変美味です。

6.抗ノロウイルス作用
 杉山氏らは、患者糞便由来のノロウイルスを利用して、植物由来成分の抗ノロウイルス効果を検定しました。リアルタイムPCRによってウイルスゲノムの定量解析を行った結果、植物由来成分のなかで柿渋タンニンが最も強い抗ノロウイルス効果を示し、ウイルスゲノム測定で約99%の消毒効果を示しました。ちなみに、現在使われている消毒剤の次亜塩素酸やポビドンヨードの消毒効果は40〜50%であることを考えると極めて有効で安全な消毒剤です。ノロウイルスによる感染性胃腸炎の治療薬としても開発が期待できます。

7.ガン細胞活性抑制効果
 ACHIWA氏らは、カキ抽出物を用いて白血病Molt 4B細胞の抑制効果を認めました。その際、アポトーシスを誘発しています。島根県しまねの味開発指導センターなどによれば、‘西条’‘平核無’などの渋柿のエタノール抽出液は、ヒト鼻咽頭がん由来のKB細胞のコロニー形成をほぼ100%抑制し、乳がん細胞(MCF-7細胞)の増殖を50%抑制しました。

8.水虫防止と消臭
 大阪市の健康商品販売会社が渋柿エキスを染みこませた牛革製の靴の中敷を売り出しています。水虫(白癬菌)予防効果と消臭効果があるとのことです。

9.カキの悪酔い防止効果
 昔から柿は酔い覚ましによいとか、お酒を飲む前に柿を食べると悪酔いしないと言われてきました。小片氏がウサギに‘富有’果実の果汁20ml(柿の実約46g)を経口投与してから30分後に10v/v%アルコール10ml/kg〔体重60kgのヒトに換算するとエタノール量60ml 約48gで、焼酎(アルコール度25%)1合強、ビール(アルコール度4.5%)大瓶(633ml)2本(1266ml)、日本酒(アルコール度15.5%)2合(360ml)に相当します〕を経口投与して、血中アルコールとアセトアルデヒド濃度を経時的に測定しました。
 1時間後に柿果汁を与えずにアルコールを投与した群では血中アルコール濃度が約500ppm(mg/l)に達し、その後緩やかに減少して6時間後に0となりました。この実験に使ったウサギはヒトに換算してビール大瓶2本、日本酒2合を摂取しています。ヒトではビール大瓶1本、日本酒1合では血中アルコール濃度が200〜400ppmとなり、気分が爽やかになる、陽気になるなど爽快期と言われ、ビール大瓶2本、日本酒2合では500〜1000ppmでほろ酔い気分、手の動きが活発になる、抑制がきかなくなる、体温が上昇し脈が早くなるなどの特徴を示すほろ酔い初期に移行します。この実験でもほぼヒトと同じ550ppmにまで血中アルコール濃度が達しています。
 柿果汁をあらかじめ摂取した群では350ppmと約6割に抑えられることがわかりました。血中アセトアルデヒドは対照の血中濃度が約3μg/mlに対し、約0.8μg/mlに抑えられ、顕著な抑制効果がありました。ちなみに酒気帯び運転の呼気1L中のアルコール濃度は0.15mgつまり0.15ppm以上で、血中濃度に換算すると0.3mg/mlつまり300ppmであり、この実験に使ったウサギの血中アルコール濃度は充分に酒気帯び運転レベルです。
 私たちは、小片氏の実験とほぼ同様のコンセプトと方法で実験を行い、ヒトに対してカキ果実の摂取が飲酒後の血中アルコール濃度の上昇を抑え、悪酔い防止効果があることを証明しました。小池田氏らもほぼ同様な効果がカキ抽出ドリンクにあることを証明しています。さらに、私たちはリンゴ果実とカキ果実を比較し、カキ果実摂取で有意な血中アルコール濃度の低下が起こったことから、カキとリンゴ果実に共通に含まれる成分ではなく、カキに特異的な成分に血中アルコール濃度の低減効果があることを示しました。このことから、おそらく、カキに特異的に含まれるカキタンニンが血中アルコール濃度の上昇を抑制しているものと考えています(図3)。
 共同研究者である勝部氏は、マウスにカキ果汁を経口投与し血中の還元力(FRAP値)を測定することでカキタンニンが血中に移行しているかどうかを調べたところ、カキタンニンは血中には移行していないことを認めています。これはカキタンニンの分子量が大きく通常は消化管から吸収されないことによるものと思われます。このことから私たちは、カキ果実摂取によって消化管に入ったカキタンニンは、血中で効果を発揮しているのではなく、消化管の中で例えばタンパク質と結合し、皮膜を形成するなどでアルコールの吸収を抑制しているものと考えています。
 一方、渋柿を食べる際には脱渋を行い、渋みを除去する必要があります。炭酸ガスやアルコール処理による脱渋操作を行うと可溶性タンニンが縮重合し、不溶性タンニンとなることで、舌の味蕾細胞中のタンパク質と結合できなくなり、渋いという感覚が脳に伝わらなくなることで、渋みを感じなくなります。筆者らは、試験管内実験において、渋柿の脱渋果を人工胃液とインキュベートすることで可溶性タンニンの量が増加することを認めています。このことは、渋柿の脱渋果を摂取すると、胃液等の影響を受け、不溶性タンニンの一部が切断されて可溶性タンニンに戻ることを示唆しています。可溶性となったタンニンはタンパク質と結合し、消化管内で皮膜形成をすることで、アルコールの吸収を抑えるのではないかと考えられます(図4)。
 これらのことから、柿をあらかじめ食べておくと悪酔いしにくいのではないかと考えられます。私たちの一連の研究をシーズとして、JAいわみ中央、島根県、島根大学の産官学連携商品‘晩夕飲力’を産み出しました(写真3)。

おわりに
 カキタンニンの機能性のユニークな利用の仕方を、悪酔い防止機能を中心に説明しました。悪酔い防止については商品開発もされ、今後の発展が期待されるところです。また、金沢大学と明治薬品らの共同研究でカキタンニンを人体に吸収しやすいオリゴマーにする技術も開発中であり今後のタンニン利用の発展を期待したいと思います。

参考文献

  1. 板村裕之:カキ果実の成熟および脱渋後の軟化に関する研究(総説),日食保蔵誌,32,81〜88(2006)
  2. 平 智・板村裕之:カキタンニン(V)カキタンニンの特質を生かした利用法について(総説),日食保蔵誌,34,291〜297(2008)